相続放棄をする前に、しっかり検討しましょう!
相続放棄というのは、念を押すようですが、マイナスの負債だけではなく、プラスも含めてすべての財産を引き継ぐ立場を放棄する手続きです。
どれだけ被相続人(亡くなった人)に借金や未払金といった債務があっても、支払いの義務はなくなります。相続するとなると、「遺言書の有無の確認」「相続財産の調査」「遺産分割協議」「所得税の準確定申告」「相続税の確定申告」「相続財産の名義変更手続き」など、様々な手続きをしなければなりません。こうした煩わしい手続きからも解放されます。
いっぽうで、実家の不動産も、ダイヤモンドの指輪、美術品などプラス財産があっても受け継げなくなるのです。「あの土地は相続したい」「ダイヤの指輪は欲しい」「あの掛け軸は欲しい」というのであれば、「相続放棄」ではありません。
自分が受け取れる相続財産のすべてを計算してプラスが出るなら、デメリットが多い実家でも相続すればいいのです。
すべての財産を受け継ぐか、すべて受け継がないかを判断するのが相続放棄です。相続放棄後に高額のプラス財産が出てきても、もはや受け継ぐことはできません。原則、相続放棄は詐欺や脅迫などを受けたときをのぞいて、撤回や取り消しはできません。
相続放棄には3カ月という申述期間が定められているため、この期間内に被相続人(亡くなった人)の財産状況を把握し、どうするかを判断しなければなりません。
相続放棄とは別に、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ「限定承認」という手続き方法もあります。マイナスの財産の金額がプラスの財産より明らかに多い場合や、わかっていない借金が残っている可能性がある場合などに有効な手段です。
プラスの財産とマイナスの財産、どちらのほうが多いのかわからないということは、ままあることです。「後日、多額の借金が見つかって、マイナスの財産のほうが多かった」そんな時、限定承認であれば、相続したプラスの財産より多いマイナスの財産の部分は支払わなくてもかまいません。結果的にマイナスの財産よりプラスの財産のほうが多かったとしても、財産はそのまま引き継げます。
しかし、実際にはこの手続きを利用される方は少ないです。相続放棄に比べて手続きが非常に面倒で、しかも税務上のリスクがあるため、借金の相続を逃れるために相続放棄が選ばれることが多いのですが、ひかり相続手続きサポーターでは>ご依頼者様の状況に応じて相続放棄、限定承認のどちらを選択する方がベストかなどを相続の専門家としてご提案させていただきます。 【限定承認についてくわしくはこちらをご覧ください】
知らないと、後悔することに。相続放棄の注意点!
1,相続放棄は、正式な手続きをしたからといって必ず認められるわけではありません。
相続放棄の申述(しんじゅつ)期間である3カ月の期間内に、下記のような行為があった場合、「単純承認」があったとみなされ相続放棄ができなくなります。
※単純承認とは、相続をするという意思表示をすることです。被相続人(亡くなった人)の一切の権利義務を「無限に」承継することになりますので、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も、すべてそのまま受け継ぐことになります。
単純承認は、以下の事由がある場合に成立することになります。
- 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき
- 相続財産の全部、または一部の隠匿
- 遺産分割協議(相続人全員の合意で被相続人の遺産の分け方を決めること)に参加
- 相続財産の名義変更をしたとき
なお、被相続人(亡くなった人)の税金の滞納分を被相続人の財産の中から支払ったり、葬儀費用を清算したりする行為は単純承認にはなりません。
また、形見分けを受ける行為は、原則として、単純承認にあたりません。
しかし、形見分けといわれる行為は、一般的に、それほど経済的な価値の高くないものについて行われるもので、それを超えるような形見分けの行為は、単純承認事由となる場合があります。
2,保険金や遺族年金は、相続財産に含まれません。
死亡保険金といった生命保険金や死亡退職金は、受取人固有の財産とされていますので、相続財産の中には含まれていません(しかし税法上、みなし相続財産として取り扱われる点には注意が必要)。
そのため、相続放棄をしても生命保険金や死亡退職金を受け取ることは可能です。
ただし、生命保険の受取人が亡くなった本人(被相続人)になっている場合は、相続財産となってしまうことがあるので、相続放棄をするともらえなくなる可能性があります。
また、遺族年金は、相続放棄と関係なく受給することができます。
3,自分が相続放棄をすると、次の順位の人へ相続権が移ることになります。
相続の順位(法定相続人)
配偶者
+
第1順位 死亡した人の子
第2順位 死亡した人の父母や祖父母など(直系尊属)
第3順位 死亡した人の兄弟姉妹
例えば上図のように、妻や子が相続人となるケースで、子2人が相続放棄すると、相続権は第2順位の被相続人の父母に移ります。父母がすでに死亡していたとすると、相続権は第3順位の被相続人の兄弟姉妹に移ります。相続権が移るということは、借金があった場合にそれも移ることになるのです。
それだけに、前述の例で、子が相続放棄するのであれば、次の順位である父母や兄弟姉妹に「債務が多いので、相続放棄したほうがいい」と知らせておかないと、恨まれることになりかねません。もちろん、相続放棄の期間は、当人が相続人になったことを知ってから3カ月です。
受け継ぐ遺産を放棄するだけだから単純、といった認識は間違いで、のちに様々なトラブルが発生するおそれがあります。
財産調査まではなんとかクリアできても、その結果を見て、単純承認をするのか、限定承認をするのか、相続放棄にすべきなのかといった判断は、素人の方にとっては悩ましく簡単に判断できることではありません。
相続放棄で失敗しないためには、相続の専門家に相談依頼していただくのがもっとも賢明ではないかと思います。